「2019年インフルエンザ戦線異常あり」そんな声が聞こえてきたのはなんとまだセミの鳴きはじめる時期のことでした。
例年では11月頃から猛威をふるうインフルエンザですが、2019年は夏休み前からインフルエンザで学級閉鎖となる学校が報告され、 夏休みを挟んでいったんは下火になるものの、夏休み明けから沖縄や九州などの一部地域をはじめ相次ぐ感染が報告されました。これは、世界的にインフルエンザの大流行となった2009年の患者数ほどではないとはいえ、流行り始めの時期と増加人数の傾向が非常に似ているようです。厚生労働省の発表によると、2019年9月9日から15日までの1週間で、全国に約5000ある定点医療機関の患者数が、昨年同時期の8.7倍に達しました。従来の流行時期より早く感染者数のピークが来ると予測され、医療機関ではTVメディア等を通じ、11月初旬までのインフルエンザワクチン接種を呼びかけています。
インフルエンザに対抗するワクチン
インフルエンザの症状の重症化を防ぐといわれるワクチンですが、残念ながら接種していれば絶対に感染しないというものではありません。インフルエンザウイルスの感染は、せきやくしゃみによる飛沫や接触によってウイルスが体内に入ることで起こります。このため抗体があっても、ウイルスとの接触量が増えるほど、感染しやすくなってしまうのです。したがって、感染予防には日常生活での予防が重要となってきます。感染予防のためには手洗い、うがいが基本であるとともに最も効果的といわれているのですが、この際に意外と盲点となっていることがあります。それが手洗いの時の石鹸やタオル、うがいの際のコップの共有です。インフルエンザウイルスに関しては、無機物の表面上で生存し、人への感染力があるのは2~8時間程度と言われています。そのため、8時間以内に充分な消毒などを経ずにウイルスがついたものを共有してしまうと、感染してしまう可能性が高くなります。せっかく手洗いうがいをおこなっても、菌の保有者とタオルやコップなどを共有することで、ウイルス感染はむしろ広まってしまうのです。
効果的な感染予防策として
なおインフルエンザの潜伏期間は1~4日間といわれていて、感染に気付いてからでは手遅れになっていることもあります。特に流行期に入る秋以降は、日常的に注意を払わなければいけません。家庭内であれば、ポンプ式の石鹸を使って接触面をなくす、一人ずつ使うタオルを分ける、コップを一人ずつに用意するなどである程度予防することはできますが、学校などの公共施設や企業内ではなかなかそれも難しいものです。実は、このような公衆衛生面の問題を解消するために利用されたのが、紙コップの普及のはじまりだったのをご存知でしょうか?1907年頃までのアメリカでは、列車で提供される飲料水は備え付けられているブリキ製のコップで飲まれるのが一般的でした。しかしこのコップは共同で利用されており、カンザス州の保健委員をしていた医師によって、これが結核菌を蔓延させる原因になっていると指摘されたのです。そしてカンザス大学の細菌学科での検証の結果、実際に結核菌がコップから発見されます。
当時はまだ結核に対する有効な治療薬はなく、結核はかかったら最後「不治の病」と呼ばれ人々に恐れられていました。結核の蔓延を防ぐのは政府の急務であり、直ちにカンザス州をはじめアメリカ各州で共同コップの使用禁止が法案として定められることになりました。そこでかわりに利用されることになったのが他人と共有をしない、再利用をしない、当時発明されたばかりの使い捨ての紙コップです。これを機に紙コップは急速に普及をしていくことになります。つまり紙コップの歴史は公衆衛生の歴史でもあるのです。現在ではコップ以外でも、利用者が多い公共施設や病院のトイレでは、使い捨てのペーパータオルやハンドドライヤーの設置が一般的になりました。使用後の放置されたタオルに繁殖する雑菌は数億ともいわれ、衛生面を考えると大変理にかなったものといえるでしょう。
使い捨てコップが衛生面で良い理由
このように、使い捨てのコップやタオルは利用後のメンテナンスがいらないというサービス提供者側のメリットだけではなく、公衆衛生面への貢献も大きいものなのです。消毒などのメンテナンスの費用コストや手間を考えると、使い捨てのコップやペーパータオルのほうがトータルのコストは安くおさえられるかもしれません。
現在商業施設等では紙コップやペーパータオルの利用が浸透してきていますが、一方で子供たちの部活動での給水などの小規模な集まりではまだ共有のコップが使われていることが多く、まだまだ衛生面からの意識は浸透していないこともあります。抵抗力のない子供や老人ほどウイルスには感染しやすいため、特に配慮を向けていただきたいところです。